一般社団法人 日本民間放送連盟

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第56回民間放送全国大会を開催/広瀬会長あいさつ

 第56回民間放送全国大会の開催にあたり、日本民間放送連盟を代表いたしまして、ご挨拶申しあげます。
 本日は江田参議院議長をはじめ、日頃、私たちがご指導、ご支援をいただいております各界の方々に、ご臨席いただいております。壇上と会場の、ご来賓の皆様に心より御礼申しあげます。
 2011年7月24日のテレビ・完全デジタル化、アナログ波の停止まで、昨日の段階で丁度1000日、本日から999日ということになります。いよいよ仕上げの段階に入ってまいりました。デジタル化の歩みを放送事業者の立場で簡単に振り返ってみます。放送の分野でデジタル技術を採用すべきだとの議論が世界各国で巻き起ったのは1990年代後半でございます。わたしたち放送事業者は、動画を主体とするテレビのデジタル化がいかに動き出し、有用かつ効率的かは、いち早く理解しましたが、新しい中継局を作っていかなければならず、こうした膨大な設備投資に耐えることができるかどうか、さらに、現行のアナログテレビで十分にご満足いただいている日本の視聴者の皆さんが果たしてテレビを買い換えてくれるかどうか、この2点で大いに迷いました。
 議論の末、民放連は「デジタル、ゴー」を決めました。ちょうど10年前、1998年のことです。正確には、積極的なゴーではなく、政府機関がゴーを決めるなら反対はしない、というものだったと記憶します。放送技術の面で日本だけが孤立することは極めて大きなマイナスです。あの時、政府も私たちもデジタル化を選択したのは、正しい判断であったと思います。
 デジタル化のための地ならしに当たるアナアナ変換作業がスタートしたのが2001年です。そのための費用1,800億円は通信事業者や放送事業者が納める電波利用料から支出されました。この時、電波法が改正され、10年後の2011年にアナログ電波を停止することも明記されました。2003年に東京、大阪、名古屋の三つの広域圏でデジタル放送がスタートし、さらに2006年12月には残りの全テレビ局がこれに合流いたしました。
 私たちは、ロードマップに沿って着実に中継局の建設を進めるかたわら、テレビを通して「地デジ」への切り替えを宣伝してまいりました。今年10月1日には、「テレビ受信者支援センター」を全国11ヵ所に立ち上げ、999日後に向け、すべての家庭でデジタルを享受できるように、皆さんの疑問や注文に一つひとつ対応していく態勢を整えたところです。
 デジタル化の現況を数字の上で確認します。まずデジタル電波の到達率ですが、この年末96%になります。この1年間で3%伸びました。デジタル受信世帯の普及率は9月時点で47%、年末には50%を超えるものと信じております。民放各社のデジタル投資額は、合計で1兆400億円になります。キー局、準キー局を除く平均投資額は1局当り50億円程度になります。
 来年2月にアナログ波を止める米国もそうですが、多くの国でデジタルの普及が計画通りに進まず、サイマル期間を2年、3年と延長してきております。
 わが国では、NHK、民放の放送事業者をはじめ、政府、自治体、機器メーカー、経済界、消費者団体など広範囲の関係者が国民会議を結成するなど、デジタル化に向けて足並みを揃えたことから、ここまで計画通り作業を進めることができました。この実績を踏まえ、今や、アナログ波停止の先延ばしを心配する必要はなくなったと確信します。ご支援いただきました皆さんに深甚なる敬意と感謝の気持ちをお伝えいたします。
 デジタル電波の到達率100%まで、あと僅かですが、ここからが大変です。デジタル波は遠くまで届くので効率的ですが、飛び過ぎて思わぬところで混信を起こすことにもなります。ですから、これからの作業は、出力0.1ワットとか0.01ワットという懐中電灯を灯すような鉄塔を小まめに建てていくことになります。このため 関東キー局の場合、最終的には、アナログ時代の中継局数より3割ほど多くなる見込みです。
 デジタル化という壮大かつ費用のかかる変革に取り組む私たち放送事業経営者は、リーマン・ブラザーズの突然の破綻という形で浮上した米国発の金融危機に足元を深刻に脅かされるに至っています。金融業界の経営悪化や株価の暴落は、消費、雇用といった実体経済にも打撃を与え始めています。ここ数年、米国式の経済政策や企業運営が「グローバル・スタンダード」とされてきました。そして、その中で私たちは、銀行・証券・保険の垣根を外すことにみられるような規制緩和、資本の自由な移動が社会全体の発展に繋がると見るマーケット至上主義、あるいは経営の長期安定よりも四半期ごとの利益の極大化を求めていく風潮等々、新しい環境のなかで変革を求められました。そしてまた、ときに放送を守るために株式の防御策をとることを余儀なくされるケースもありました。その延長線上に今回の金融危機や株価の暴落があり、投機による原油価格の高騰があったとすれば、あの国際基準とやらはいったい何だったのか。不条理を実感し、やり場のない怒りに駆られます。加えて、放送局の経営者を不安にしているのは、世界経済の動向ばかりではありません。
 伝統的な四大媒体のなかで、新聞、雑誌、ラジオの三つはいずれも数年前から急激な広告収入の落ち込みを経験してまいりました。そんな中で、ひとりテレビは健闘してきましたが、ここ一年ばかり、スポットを中心に広告収入の落ち込みが目立つようになりました。デジタル化のコストを広告収入の伸びで賄うというのが当初の目論見でしたが、経営悪化が各局の決算数字にも表れています。例えば2007年度決算では、三大都市圏の放送局を除いた112のテレビ局のうち ほぼ四分の一にあたる30局が赤字に陥りました。また、2008年度上期をみますと状況はさらに悪化しており、キー5局は通期の見通しで、利益が前年度比30%から50%近くマイナスになると予測しています。経営環境が苦しくなった折は、同時に、経営に溜まったサビを落とし、仕事の領域を見直す絶好の機会でもあります。先輩たちはそうやって何回もの苦難を乗り切ってまいりました。このため不況で破綻した局はこれまで一例もありません。今現在も、各局におかれてはさまざまな収支改善の努力が展開されていると確信します。系列の放送局同士が協力できるように、放送持株会社の設立を可能にしたこの春の放送法の改正は、政府がテレビ局の経営悪化を予想したためとは思いませんが、真に時宜を得た措置だったと思います。
 こうした中で、極めて重要なことがあります。経営者が弱気になって、テレビの将来の夢を見失ってはならない、ということです。テレビは、あらゆる媒体の中で最も影響力の大きな媒体です。デジタル化が完成した暁には、画面の大きさ、色彩と音声の鮮明さ、ワンセグ放送の補完的活用等により、その力は一段と大きなものとなり、他のメディアとの力の差を広げるはずです。その媒体力を背景に、私たちは、報道、エンターティメントをはじめ、すべてのジャンルで日々、魂のこもった番組をお届けし、沢山の人に喜ばれ信頼されていきたい。それが国民の資産である電波を預かる放送人の役割だと思います。
 私たちは、テレビの将来に疑問を持つには、まだまだテレビの可能性を極めつくしているとはいえません。制作者たちが安易に流れることなく、常に新しい挑戦を続けること、そしてまた、それを経営者が認めることこそが、テレビを活性化する道だと信じています。
 新聞や雑誌の経営は新たに登場したインターネットの侵食をまともに受けましたが、テレビにはその心配はないのでしょうか。日本はじめ欧米のこれまでの経験からみますと、テレビに対するIPの影響は極めて限定的であり、脅威に感じる理由はないと判断します。IPが自ら、テレビ番組に匹敵するようなコンテンツをつくることはありません。テレビが有料、無料を問わず、番組のマルチユースの一環としてインターネットを活用するケースが増えており、脅威というよりはわれわれの経営の選択肢を広げる新しい手段と位置づけてよいと考えます。
 番組制作に関連して一つ、言及しなければならないことがあります。プロダクションの多くがここ数年「人が集まらなくなった」と苦境を語っております。そして今回の放送局の苦境で、制作予算の更なるカットが続くのではないか、そうなると資金繰りが危なくなる、と深刻な心配を表明しています。プロダクションが疲弊すれば、必ずテレビ番組の質の低下となって跳ね返ってまいります。局とプロダクションは二人三脚で繋がっており、苦しいときこそ連帯を確認していくべきです。賢明な経営者はそう考えていると思います。またこういう時こそ、番組の権利関係を処理しやすい形に改め、番組のマルチユースによって、局とプロダクション双方の利益が増える道を確立すべきだと思います。
 アメリカのアナログ停波は4ヶ月後に迫りました。そして先月、全米注目の中、ノースカロライナ州ウィルミントン市でアナログ放送が一足早く停止されました。デジタルへの切り替えはおおむね順調にいきましたが、やはりテレビから遮断された家庭も皆無ではありませんでした。視聴者の反応はどうであったか、地元の大学が調査を担当しましたが次のようなコメントが報告されています。曰く「普通に生活をしている人々にとって、テレビは生活そのもので、そのテレビが映らなくなったとき、人々は社会から遮断された思いがする。何をしてよいかわからなくなり、恐れを抱く」。このレポートは、完全デジタル化に向け、放送事業者の責任がいかに大きいかを告げるものです。同時に、テレビというメディアがいかに人々とともにある存在か、これがなくなると暮らしが成り立たないかを、如実に教えています。
 テレビやラジオの将来に大きな夢を描き、直面する空前とも言える経済環境の困難に忍耐強く、かつ自信をもって立ち向かって行こうではありませんか。

 本大会のために、シンポジウムや講演でご協力いただく方々、大会の準備をしていただいた菅谷委員長はじめ、関係者の皆さんに御礼を申しあげます。そして本日、全国民放の放送人の中から選ばれて栄えある表彰を受ける方々に、心よりお祝いを申しあげます。 ありがとうございました。

平成20年10月28日
 
社団法人 日本民間放送連盟
会 長  広 瀬 道 貞