一般社団法人 日本民間放送連盟

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第57回民間放送全国大会を開催/広瀬会長あいさつ

 第57回民間放送全国大会の開催にあたりまして、ご挨拶申し上げます。本日はたくさんの来賓の方がおみえでございます。なかでも江田参議院議長、松野内閣官房副長官、原口総務大臣、福地NHK会長、大変お忙しい4人の方に民間放送の激励に来ていただきました。誠にありがとうございます。
 2カ月前の衆院総選挙において、日本の有権者はかつてない大胆な選択をいたしました。その結果生まれた新しい政権は、投票に表われた国民の期待に応えるべく、政治、行政全般の見直しと具体的な改革に乗り出しております。
 民主党が選挙で掲げた公約の中でいちばん新鮮に響いたのは「官僚依存政治からの脱却」だったのではないでしょうか。これはスローガンに留まることなく、事務次官会議の廃止や、次官、局長の記者会見の廃止などが、さっそく実行に移されました。一部ですでに執行が始まっていた本年度の補正予算についても、大臣・副大臣・政務官のいわゆる「政務三役」が自分たちの発想であらためて点検を行い、2兆9000億円を超える補助事業の凍結を実施いたしました。
 軍政が敷かれた占領時代は別として、これらは戦後政治史に例を見ない刮目すべき荒技でございます。国民の多くが、これまでの制度や予算のあり方が、口先だけでなく、ほんとうに変わるかもしれない、これからは文字通り与党が政策の決定権と責任を持つ時代になるかもしれない、そのようにハダで感じております。
 アンタッチャブルの聖域は在りません。すべてが「見直し」と「チェンジ」の対象になります。当然、わたしたちの放送事業も例外ではありません。テレビやラジオは人々の暮らしと深く結びついていることから、放送をどうするのか、放送がどうなるのか、与野党はもちろん国民の多くの関心がここに集まっていると考えるべきでしょう。
 放送事業はさまざまな課題を抱えています。
 当面する最大の課題といえば、やはりテレビのデジタル化であります。全国5000万世帯でもれなくデジタル画像が受信できるように準備を進め、2011年7月24日、めでたく切り替えを完了し、同日をもってアナログ波を政府にお返ししたいと思います。
 一方、古くして新しい宿年の課題があります。申すまでもなく放送倫理の問題です。政府や政党による監視や介入を排除しつつ、同時に番組による放送被害を絶対に出さないようにする、万一被害を出した場合には速やかに救済措置を講じるようにする、そのシステムをどう構築し、維持するかということです。デジタル化と放送倫理、この二つの課題について、いくつかの点を指摘させていただきます。
 ご承知の通り、地上テレビのデジタル化事業は、ICTが進化する世界の潮流であります。日本としても避けて通ることができない国民的課題として、政府・自民党により提起されました。そして法整備を終えた2001年7月25日から10カ年計画として事業がスタートいたしました。
 政府と民放、NHKの放送事業者が大きな役割を担うのは当然ですが、自治体、電機メーカー、家電販売店、市民団体、福祉団体などたくさんの人たちが参加する国民的事業として今日まで展開されてきております。
 わたしたち放送事業者は、折に触れ、民主党をはじめとする野党の皆さんに事業の進捗状況を説明し、貴重な意見や提案を頂いてまいりました。そのなかで民主党が一貫して主張してきたのは、家計の事情でテレビの買い替えができないとか、地理的条件からテレビが見えなくなるとか、そんなデジタル格差を絶対に作らないように関係者全体で努力すべきである、ということでありました。そしてそのために必要になる予算は、自分たちも政府や与党に求めていく、という発言も多くの方からいただきました。
 原口総務大臣は、就任直後の発言のなかで、2011年7月のデジタルへの切り替えは新しい政府にとってもきわめて重要な命題であり、その切り替えに必要な条件を整備するため、政府にできることはなんでもやっていく、と言明されました。力強い決意の表明であります。
 先に述べましたように、各省で補正予算の見直しが実施されましたが、その際にも地デジに関連するエコポイント、難視対策、社会的弱者支援などの予算は削減の対象から外されています。民主党をはじめ与党挙げてデジタル化に取り組む姿勢が明確にみえてまいります。
 ところで、仕上げ段階を迎えたデジタル化の状況でございます。放送事業者が受け持つ中継局の整備事業はすでに人口の多い「大どころ」は完了し、山間部など局地対策ともいうべき最終段階にはいっております。いぜん心配なのはデジタルテレビの世帯普及の数字です。
 この夏のエコポイント導入に加えて、来月からは生活保護世帯などに対する政府支援の無料チューナーの配布が始まります。その結果に期待していますが、それで十分かどうか。これまでの経験からいたしますと、地球環境に対する関心の高まりから、経済的理由とは別にエコの感覚で、今のテレビを使えるだけ使いたいという家庭も多いようです。ひとつの見識ですが、そんな人たちにどう対応していくべきでしょうか。
 たとえば、チューナーを安く貸与する制度をつくれば、エコ感覚のひとには効果があるかも知れません。アナログテレビはそのまま使い続けられますし、大量廃棄物の問題も緩和されるはずです。来年度の予算に間に合うように、政府や与野党のみなさんとともに工夫していきたいと思います。
 次に、放送倫理の問題です。2年前に経験した番組『あるある大事典』問題と、これが契機となっておきてきました政治の動きを簡単に振り返ってみます。政府・自民党は再発防止のために放送法の改正が必要だと判断し、そのための法案を作成し国会に提出いたしました。法案の中身は「国民生活に悪影響をおよぼし、また、国民の権利を侵害した放送が行われた場合、総務大臣は放送局に対し再発防止計画の提出を求めることができる」というものであります。
 そこには露骨な罰則は含まれておりません。しかしこれが、放送局に対する行政指導の法的根拠になることは、紛れもない事実です。放送局の幹部が何かと総務省の局長、課長に呼び出されることになれば、これはなかなかのボディーブローです。わたしたちは、法改正に反対を表明しました。同時に、民放とNHKで設立したBPOの中に、新たに「放送倫理検証委員会」を設け、この委員会での議論を経てその結論に従い、被害救済措置、再発防止計画、検証番組の放送などを行うことを決定しました。
 当時、野党の皆さんの間でも『あるある大事典』に対する非難にはきわめて厳しいものがありました。「あんなことがしょっちゅうあれば、放送局を守りきれない」という声もお聞きしました。にもかかわらず、民主党をはじめ多くの野党が放送法改正に反対したのは、表現の自由という憲法の規定は、もともとメディアの都合のためにあるのではなく、民主主義を守るためのインフラであり、番組に問題ありとしても、表現の自由はゆるがせにできない、と高度の判断をしたためでした。
 政府・自民党からは「法改正が成立しても、BPOが機能している限り改正条項は発動しない」という妥協案が示されたりしましたが、野党の反対に加え、最終段階で憲法の原則を重視する公明党や放送事業に明るい自民党電気通信調査会のメンバーなど与党の中からも慎重論が出て、継続審議の末に、くだんの条項はきれいに削除される形で、ようやく成立いたしました。
 いま、民主党の中には、米国のFCCに似た独立行政機関を日本にも作るべきだという意見があります。2年前の放送法改正の際、時の権力による介入は許されることではないが、しかし一方、放送被害が多発する事態も放ってはおけない、という難しい選択の中で、この日本版FCC論が広がったと言っていいと思います。
 そのFCCですが、米国でもさまざまな評価があります。2000人近い組織に膨れ、通信・放送に係わる行政だけでなく、テレビ番組の評価にもかかわり、懲罰的に罰金を課したりもします。言論の自由を格段に大切にする米国ですから、さすがに政治的な問題での介入は避けられておりますけれども、日本の場合、中立機関だからといって安心して任せられるものかどうか。
 原口総務大臣は、自分たちが考えている組織は米国のFCCと違って、番組には立ち入らない、むしろどんな政権になっても放送番組に立ち入ることができないように、言うならば2年前のような政治紛争が起きないよう、恒久的な防壁をつくることだと言い、番組問題については今のままBPOにお願いしたい、という姿勢も示しておられます。
 BPOの三つの委員会の委員のみなさんは、視聴者が「問題あり」と指摘してくる番組について、まことに真摯に調査、検証に当たります。そして委員会での議論の末「問題あり」と判断すると、細かくかつ厳しく放送局に「見解」や「勧告」の形で対応を求めます。にもかかわらず、放送被害を根絶できないでいるのは放送局としてまことに残念であり恥ずかしいことですが、BPOの熱のこもった指摘を教材にしつつ、経営トップも現場も番組制作の学習を日々続けているのが実情であります。
 民放連は当面、BPOのシステムを視聴者と放送局の間に定着させることを目標にして進みます。BPOは世界に誇れるシステムになると信じていますが、BPOに加えて政治不介入の恒久的な方策が樹立されるならば、それはそれで素晴らしいことでございます。これからの議論を注目してまいります。
 最後に、放送業界が直面する不況について述べねばなりません。10年間におよぶデジタル投資は、ローカル局の場合、1局平均54億円になります。年間の売り上げは平均50億円程度、利益はその5%前後ですから、これは明らかに身の丈を過ぎた投資額であります。この投資がピークを迎えたところで、米国発の世界不況の直撃を受けました。2008年度決算で全放送局の過半数が赤字になりましたが、これはかつて経験したことのない事態であります。09年度上半期の収支はいくらかマシですが、これは主として経費削減の効果によるものでございます。
 全体としての景気の好転は、国のマクロの経済政策を待つほかありません。他の業界同様、わたしたちもそれを切望しております。しかし同時に、わたしたち自身、軽く見てはならないことが二つあります。
 第一は、テレビのCM不況はリーマンブラザーズの破綻以前から始まっていたということです。折しもインターネットの飛躍的普及の時期と重なったために、CM不況を「構造的なもの」「テレビの先細りを意味するもの」とする見方が広がりました。事実なら暗い気分になりますが、私はそうは思いません。少なくとも、そう言い切るのは、早すぎます。
 テレビの総世帯視聴率(HUT)ですが、全盛期といわれた25年前、関東地区の民放のプライムタイム合計視聴率は56.2%でした。昨年のそれは53.0%。3.2%の減です。テレビ視聴時間は当時も今も1日220分です。この25年間といえば、パソコンが普及し、そこに検索とブログが登場し、携帯電話が普及し、ゲーム機器が普及するメディア激変の時代でした。そこで民放HUTの減少が3.2%にとどまったのは、まさに「民間放送健闘せり」の証でございます。
 それならなぜ、CMが不調なのか。番組の魅力がやや落ちてきたこと、マンネリが感じられること、またCMの形式ですが、スポンサーの側からすると1単位15秒という細切れでは宣伝効果が読みにくいという思いもあるようです。番組制作の現場にはもっと元気を出し、冒険し、個性を出していただきたい。CMは後からついてくると割り切って、喜ばれる番組、頼りにされる番組、地方情報をふんだんに盛った地方の方々に喜ばれる番組、これらを次々、繰り出していこうではありませんか。それがなければ、景気が回復に向かったとき、テレビの収入がその勢いに乗れないという事態が心配されます。
 第二に、わたしたちはいま、山間や島影で100世帯、200世帯という小さな集落に向けたデジタル中継用の鉄塔を建てております。そのコストと、予想されるCMの収入増とを比較するなら、算盤にあいません。テレビ免許の条件に圏内全域に電波が届くよう努力することという定めがございます。日本の放送制度は厳しいな、と愚痴の一つもこぼしたくなります。
 しかし見方を変えれば、話は変わります。他のメディアはコストとのかね合いで、山間の小さな集落をあまり対象にはしません。そこではテレビとラジオが格段に重宝されております。放送の独壇場と言ってもいいでしょう。日本ではテレビが他のメディアに比べて圧倒的に強い影響力を持つのは、情報格差に悩む集落をマル抱えしていることが背景にある、と私は見ております。デジタル網の完成は、他の国に比較してお金がかかりますが、その分かならず放送事業者の利益となって還ってきます。
 会場の皆さん、それを信じて、強い足取りで歩き、2011年7月24日をやり遂げようではありませんか。アナログ停波について、ある県は“GO”で、ある県は“先延ばし”、ということはありえません。一蓮托生であります。一丸となって進みましょう。
 皆さんのますますのご健勝をお祈りして、挨拶を終わります。
 ありがとうございました。

 平成21年10月27日

 
社団法人 日本民間放送連盟
会 長  広 瀬 道 貞