一般社団法人 日本民間放送連盟

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民間放送60周年記念全国大会を開催/広瀬会長あいさつ

 民間放送60周年記念全国大会の開催に当たり、ご挨拶申し上げます。本日は大変お忙しい中、たくさんの来賓の方々にご臨席をいただきました。また記念大会ということで功労者のご家族もお招きしております。全国201社の会員社の皆さんとともに歓迎し、感謝申し上げたいと思います。
 民間会社が経営する二つのラジオ局が放送を開始したのは60年前、1951年9月1日のことです。同じその9月、吉田茂首相がサンフランシスコ講和会議に出席し、東西の対立が厳しい中、西側を選んで講和条約に調印いたしました。翌年の春、条約が発効し、連合国による日本占領が終了しますが、私たち民間放送はゼロからの出発となった「新生日本」と歩みを一にすることになります。
 民主主義の発展にとって、活発で、かつ責任あるメディアの存在は欠かせません。新しい憲法と放送法によって表現の自由が保障され、これを追い風に放送事業はこの60年、おおむね順調に成長を続けてまいりました。NHKと民放との放送二元体制は、日本の風土に適した賢明な制度設計だったと思います。正しい評価は後世に委ねることになりますが、メディアの主要な一角を占めることになったラジオとテレビは、この国の民主主義と人権思想の成熟にいささか寄与するところがあったと自負しております。
 さて7月24日、東北の被災3県を除く全国44都道府県でテレビのデジタル移行が大きな混乱を招くことなく終了いたしました。自治体、メーカー、電器店、さらに最終段階でボランティアの方々の参加をいただき、こうした方々のご協力のおかげで成功できました。視聴者の皆さんには受信機の購入で多大の出費をおかけいたしました。
 放送事業者が世間の方々に報いるためには、報道でもドラマでも、あるいはバラエティーでも、歯ごたえのある、そして役に立つ番組を提供していく以外にはない、と自覚しております。
 テレビのデジタル化は世界の趨勢で、既に移行を完了した国も少なくありません。しかし海外を訪れた皆さんは、画質も音質も以前とあまり変わっていないではないか、と感じたと思います。(1)チャンネル数を増やすことに重きを置いたため、HDに必要な電波帯域が確保できなかった、(2)ケーブルテレビ経由の視聴の場合、ケーブルの容量が改善されなかったケースもある、(3)HD放送の番組そのものが少ない――などが理由になっております。米国でもHDが見られるのは20%程度という数字も出ております。
 日本の場合、政府も私たちもデジタル移行にあたって最上の視聴環境を作ることを目指してまいりました。デジタルの特徴をフルに活かしていくためには、まず直接受信の世帯を増やすことが大事です。NHKと民放各社はこのため、中継局の配置にあたって網の目を細かくしました。また、全国の放送事業者がHD向きの番組については100%HD化するとの方針を立て、早い時期にそれを達成しました。有線放送事業者もケーブルの改良を早い時期に済ませております。
 その分、放送局の投資額は膨らみました。しかし、インターネットの成長を軸に新旧の媒体が大きく変わる中、テレビはいち早く自己変革を遂げ、高画質、高音質、大画面によって改めて最強のメディアであることを印象づけることができました。
 とはいえ、デジタル特有の機能を編成や営業に生かしていくのは、これからの課題であります。モバイル向けのワンセグは既に普及しつつあり、東日本大震災でも重要な役割を果たしました。しかしワンセグの他にもデータ放送やマルチ放送の機能があります。マルチ放送はメイン放送とサブ放送の二種類の番組を同時に放送し、どちらを見るかは視聴者に任せるという画期的なものであります。
 私たちは、メディア変革の中にあって、各県にあるローカル新聞が根強い読者層に支えられていることを体験しております。まことに、人がそこに生活するのは身近な情報によってです。放送局が地域情報の大切さを感じつつ、これまで十分な発信ができなかったのは、一つには発信の場が少なかったからだと思います。放送局が時に応じてサブ放送を使い、例えば県大会レベルのスポーツ競技などを中継するようになれば、多くの県民がテレビ新時代を実感すると思います。
 3月11日、人も町もすべてを押流して行く津波を見ながら、地球の諸現象の前で人の営みがいかに小さなものであるか、思い知らされることになりました。東日本大震災でのメディアの活動について、反省すべきは何か。民放連研究所は仮設住宅などの被災者を対象に調査を実施し、先日、報告会を公開の場で開きました。
 ご承知の通り、あの日、地震の発生は午後2時46分でした。家屋の倒壊等による犠牲者は3県とも、ほとんどいませんでした。すなわち2万人近い死者・行方不明者が出たのは、地域により違いがありますが、30分から50分後に襲来した巨大津波によるものです。その間に、海岸近くにいた人たちに「いつもの津波とは違います。早く高台に避難してください。そしてそこを動かないように」という効果的なメッセージを届けることができたとしたら、犠牲者を大幅に減らすことができたでしょう。私たちがまことに無念とするところであります。
 3県ではラジオ、テレビの民放局が16局あります。ほとんどの放送局で地震と同時に電気が止まりました。しかし局内の蓄電池と自家発電機が円滑に作動し、いずれの局においても放送が瞬時も止まることはなく、気象庁の津波警報はタイムラグなしに放送されました。地域の停電で居間のテレビは見えなくなりましたが、ラジオとワンセグが活躍しました。ラジオを聞くために車庫に走り、マイカーのエンジンをかけた人も少なくありません。
 今回の放送局の体験から政府と自治体に提言したいことがあります。調査によりますと、町内の拡声器にも繋がっている自治体の防災無線が、津波警報を伝達するうえで一番大きな役割を果たしております。しかし、防災無線は地震と同時に機能を失ったところが多く、そこではラジオとワンセグがこれに代わって大きな役割を果たしております。
 そこで第一の提言です。自治体の防災無線も放送局同様、自動的に発電機につながる停電対応型にしておくべきではないでしょうか。
 調査によりますと、警報を聞いても「しばらく様子を見てみよう」とすぐには避難行動を起こさなかった人が半分近くいました。不幸にも亡くなった方を考えるなら、もっと高い数字になります。今迫りつつある津波は堤防はもとより町全体を押し流すほどの、とんでもない大きなものだという情報が気象庁から放送局に伝わっていれば、地元の放送局はそれをリアルに住民に伝えることができたに違いありません。その情報がありませんでした。
 先日、NHKの検証番組を見ておりますと、主婦の一人が「津波は3時ごろだという警報を聞いて避難しました。しかしその時刻は無事済んだので、また家の方に戻りました」と話していました。地震の後、海上に発生する海水の膨張とその後の動きをフォローする探査システムを作ることは、容易ではないとお聞きします。しかし正しい刻々の情報がなければ、放送の効果には限度があります。津波情報の精度向上に国をあげて取り組んでいただきたい。これが第二の提言です。
 東京電力福島第一原子力発電所の事故は、核廃棄物の処理、汚染土の除去、住民の暮らし、補償、今後の電力政策のあり方と現在進行形で波紋を広げております。原子力は今後数年間、報道の主要テーマの一つであり続けると思います。
 メディアの世界に限ったことではありませんが、原子力や放射能について専門的な知識を持つ者は少なく、事故発生時、当局側の発表に対してメディアが質すべきことを質したか、今振り返ると残念な部分が多々あります。しかしこれからは、専門知識がないというのは理由になりません。視聴者に分かるように話すには、テレビのリポーターは時に専門家以上に専門家であることが求められます。若いリポーターの皆さんには、意欲的に、かつ謙虚に原子力問題に取り組んでもらいたいと思います。この面で、私たちが貢献しなければならない点は大きいと思います。
 原発もそうですが、これからの日本の針路を考えますと、一つ正しい道を選んでもすぐ次の分岐点が待っている迷路ゲームのように、難関がいくつも重なっているように見えます。上手にクリアーしていくには、多くの人が知恵を出し合うしかありません。そのためには、冷静で生産的な議論の場が必要です。テレビやラジオは議論の場を提供する上で最もふさわしいメディアではないかと考えます。
 10月から東京都と沖縄県で暴力団排除条例が施行されました。これによって47すべての都道府県で条例がそろったことになります。反社会的勢力との戦いでメディアが担うべき役割は小さくありません。すでに多くの放送局が「行動規範」や「コンプライアンス憲章」を設け、その中で反社会的勢力との関わりを排除することをうたっております。
 しかしながら私たちは日々の広範な活動のなかで、点検を怠りあるいは点検が甘くなり、そうした勢力と無縁とはいえない企業と契約を結んだケースも皆無とは言えません。民放連では昨日、会員協議会で『反社会的勢力に対する基本姿勢』を改めて明文化し、厳しく対応していくことを宣言しました。放送業界がどう対応するか、世間の関心も高い中、しっかり守っていきたいと思います。
 来年3月31日に岩手、宮城、福島3県でテレビのアナログ放送を停止し、これによって我が国のデジタル移行が完了します。震災の爪痕が残る中で、3県の県民の皆さんには受信機の取替えなど面倒をおかけすることになります。
 積雪期に入ると作業ができなくなります。いま3県のデジサポ=テレビ受信者支援センターは自治体などとともに未対応の世帯を訪問し、対応を手助けするという最終段階の仕事をしており、年内には終える予定と聞いています。津波に直撃された地域の一日も早い再興を願いますが、その地域でもし電波が届きにくいならば、私たちはいち早く新たな中継局を建設する所存です。
 災害の際にラジオがいかに役立つか、今回もまた証明されました。メディアが多様化する中で、ラジオ局はラジオがいつも人々の身近にあって気軽に楽しんでもらえるように、そして災害時には本領を発揮できるように、様々な工夫をしています。また中短波、FMに加えてデジタル・ラジオの実現も政府をはじめ関係団体の間で検討されています。ラジオの重要な役割は、まだまだ続いていきそうです。
 はじめに私は、この60年間、放送が民主主義や人権思想の成熟に貢献するところがあったと申し上げました。しかし同時に、大きな誤報や深刻な放送事故を起こし、世間の不信や怒りをかってきたのもまた事実であります。社会の矛盾や不公正を衝く志の高い番組であっても、関係者に対する取材が不足し、あるいは資料の使い方を誤れば、放送としては誤報です。テレビの影響力の大きさからいって、私たちの日々の仕事はどんなに注意深く進めても注意し過ぎるということはありません。
 それを踏まえた上で、ということですが、私は全国の放送人に新しい発想による大胆な番組づくりを常に心がけていただきたいと期待します。
 長く続いた経済低迷のせいでしょうか、このところ人々の心が明るさ、活発さから遠ざかりつつあるように見えます。力のある番組でテレビの前をエネルギースポットにしていきたい。テレビ新時代と呼ばれる一時代をこの2010年代に築いていこうではありませんか。

 平成23年11月1日

 
社団法人 日本民間放送連盟
会 長  広 瀬 道 貞