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第63回民間放送全国大会(大阪)/井上会長あいさつ

 第63回の民間放送全国大会開催にあたり、主催者を代表いたしまして、ごあいさつ申しあげます。

 

 本日はご多用中にかかわらず、松下総務副大臣をはじめ多数の皆さまにご臨席いただき、誠にありがとうございます。

 

 本年は、例年にも増して日本列島は自然災害が相次いでおり、多くの方が被害に遭われました。被災された方々に、心よりお見舞いを申しあげます。

 私ども民間放送はライフラインとして、正確な情報提供に努めなければならないことを、改めて肝に銘じたいと思います。

 

 さて、ここで、昨今のメディア事情について、そして、それに対して民放はどうすべきかということからお話したいと存じます。

 

 まず、第一にタイムシフト視聴について、です。

 視聴者の生活スタイルの変化からタイムシフト視聴が増えてきておりますのは、ご案内のとおりです。放送番組を録画して後で見るという生活習慣の変化により、番組によっては、タイムシフトの視聴率がライブ視聴と変わらない位となっている番組も散見されます。

 しかし、CMがスキップされるということで、タイムシフト視聴は広告主から広告媒体としての価値を認めていただいておりませんので、マネタイズされておらず、放送局の収益源となっておりません。また、デジタル化の後、放送番組の録画が10回まで認められたこともあり、事実上コピーが野放しとなってしまいました。その上、録画機器製造メーカーは、アナログ放送のときには認めていた私的録画補償金の支払いを停止しました。

 従いまして、タイムシフト視聴によって、民放界は広告媒体としての価値を毀損されたままという状態になっています。

 

 第二はインターネットの問題です。今までも民放業界以外の映像ソフト制作者は多数ありましたが、どのソフトを放送として提供するかの選択肢は、放送局の側にありました。たとえば、映画についていえば、作品はまず劇場公開され、その中から我々放送界が購入して、初めてテレビに登場するという形でした。

 しかし、現在は違います。ネット配信事業者は、自ら制作・調達したコンテンツを直接、テレビ画面に流し始めています。これは、テレビ画面がテレビ局だけで独占できるものではないことを意味しており、重大な問題です。

 もちろん、ネット配信事業がすぐ利益を産むものでもありませんし、ネット配信が今すぐに放送にとって代わるものでもありません。しかしながら放送法により、ある意味守られ、同時に規制もされている民放界とは全く異なる自由競争の世界からきたライバルと、テレビ画面をめぐって戦っていかなくてはなりません。

 さらには、放送番組のネット配信をどのようにマネタイズしていくのか、それをしっかりと考えなくてはならない重要な時期を迎えたと考えています。もちろん、我々は「最強のコンテンツ制作者」であると自負しておりますが、決して盤石だとは考えておりません。強い危機感を持って、検討していただきたいと思います。

 

 第三は4K・8K放送です。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを4K・8Kでというキャッチフレーズのもとに、準備も進んでおります。

 しかし、4K・8Kを送ることのできる周波数の帯域は不足しています。その一方で、電波を使う放送局以外の領域では、ケーブルテレビもブロードバンドも4K対応は可能であります。

 4K・8Kのビジネスモデルをどう作っていくかの妙案がなく、マネタイズの可能性がなかなか見えない中で試験放送が開始され、これに民放としてどう向き合うか、極めて憂うべき状況であります。

 そうした視点で、BS試験放送の実施状況や視聴者の反応、受信機の開発動向を見極めてまいります。また、4K放送を衛星放送で実施し、4K受信機が各家庭に浸透すれば、地方局はどうするのかという問題に直面します。その前に、総務省には考えを示していただきたいと思っておりますし、われわれ民放事業者自身も研究していく必要があると思います。

 

 第四は違法動画です。皆さまもご存じのとおり、放送した直後に見られるという程、違法動画は跳梁跋扈しております。民放連としては、権利者を守るために、また我々が作ったソフトの重要性を高めるためにも「違法動画」撲滅のため、前年度はスポットを制作して、違法動画は犯罪だということを各局で放送していただきました。また、この秋から冬にかけて、ネットも使って違法動画撲滅キャンペーンを行いながら、同時に関係各所に違法動画の取り締りについてもお願いしたいと思っております。民放事業者自身もこうした取り組みにぜひ参加していただき、違法動画の撲滅に努力していただきたいと思っております。

 

 第五はNHKとの関係です。日本の放送は、受信料を財源とするNHKと、広告収入を主な財源とする民間放送が、「放送の二元体制」によって協力・競争し、今日まで進歩・発展してまいりました。今後もこれを維持し、お互いがそれぞれの果たすべき役割を認識し、日本の放送文化の発展に役立てていきたいと考えております。

 NHKの今後のあり方に関しては、自民党「放送法の改正に関する小委員会」は、ネットでの同時再送信等も提言しており、十分に注意が必要です。総務省は、NHKの受信料義務化だけでなく、民放の課題を含めて検討する「放送を巡る諸課題に関する検討会」を設置しました。メディア環境の激変に伴い、今後の放送のありようを丁寧に議論されることを期待しております。

 

 六番目はラジオについてです。ラジオを取り巻く経営環境も、より一層厳しさを増してきております。

 その中で、民放ラジオのメディア価値向上に向けた検討が行われ、民放連がとり得る対策の方向性として、「ラジオの力」を活かした社会的意義の高いキャンペーンの実施や、リスナーがお気に入りのラジオ番組をSNSで拡散してその番組を簡単に聴くことができるようなサービスの実現などが挙げられています。

 また、来年3月にはV-Lowマルチメディア放送もスタートの予定です。難聴・災害対策のためのFM補完局、ワイドFMも続々開局しております。そうした点ではラジオの媒体力は上昇していくと思います。

 これと並行してラジオ各局におかれましては、「ラジオファン」の存在を大切にした番組制作やイベント展開などに、より一層取り組んでいただきたいと思います。

 

 次に、政治とメディアの関係についてです。今年6月に一部の政治家から、民間放送や新聞の広告主に圧力をかけることにより、報道機関の取材・報道の自由を威圧しようとする言動があり、「容認しがたい」とする会長コメントを発表いたしました。言うまでもなく、放送事業者は、放送法と自らが定めた放送基準に基づき、自主的に判断して放送を行っております。あらためて、取材・報道の自由は尊重されなければならないことを確認しておきたいと思います。

 私事ですが、昨年、北京大学で講演する機会がありました。そこで、日本では「言論の自由は大変大切であり、これは民主主義の基礎である。ただ、言論の自由は無秩序であってはいけない。そのために、我々放送業界は自主的なチェック機関として独立したBPO(放送倫理・番組向上機構)という組織を持っている」と紹介いたしました。

 このBPOに対し、「放送局の身内であるため判断が甘い、お手盛りではないか」との意見があり、「国の関与が必要」との声があります。しかし、放送事業者はBPOの各委員会の判断を尊重し、重く受け止めて、自主的に改善策を講じ、放送番組の向上に努力しております。BPOの目的を考えれば、「公権力から独立し、放送界が自主的に設置した第三者機関」という現在の形しかあり得ません。そのためにも、会員各社の皆さまには、視聴者・聴取者の声やBPOの委員会の意見・提言に真摯に耳を傾け、番組制作に活かしていただきたいと思います。

 

 今日はいろいろ厳しいことを申しました。誰しも見たくない現実は見ない、聞きたくない真実は聞かないと申しますが、残念ながら昨今の放送を取り巻く現実は厳しさを増しております。

 テレビ・ラジオは、依然として最も強力なメディアであることは確かです。しかし、真摯に現状に対応した経営をしていかないと、気づいた時には遅いのも事実です。

 

 さきほどラジオに関して触れましたが、1年前に、「民放のメディア価値向上」に向けた検討を事務局に依頼し、このほど、その報告書がまとまりました。民放の置かれた現状を多面的に把握し、できるだけ正確な“実物大の自画像”を描く、という試みは、一定の成果が得られたものと思います。各局でその成果を有効に活用していただいて、自らの進むべき方向を、自らの力で見つける努力をお願いしたいと思っています。

 

 最後になりましたが、本大会の実現のためにご尽力いただいた望月民放大会委員長をはじめ、一丸となって大会の準備を進めてこられた、在阪社を中心とする各社の皆さまに、心から感謝を申しあげ、ごあいさつとさせていただきます。

 

 

平成27年11月10日

一般社団法人 日本民間放送連盟

会 長  井 上   弘

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