トピックス
第70回民間放送全国大会/遠藤会長あいさつ
日本民間放送連盟会長の遠藤でございます。
第70回民間放送全国大会の開催にあたりまして、主催者を代表して、ごあいさつを申しあげます。
本日は、ご多忙の中、柘植総務副大臣、前田NHK会長にご臨席をいただきました。岸田内閣総理大臣からは、ビデオでご祝辞を賜っております。誠にありがとうございます。また、会場にお集まりのみなさん、配信をとおして参加をいただいているみなさんにも厚くお礼を申し上げます。
さて、民放ラジオが誕生したのが1951年9月、民放テレビの誕生は1953年8月です。民間放送はそれ以来、急成長を続け、20世紀の終わりにはマスメディアの中心的な存在として、大きな位置を占めるまでになりました。
その20世紀の終わりからインターネットの商業利用が本格化し、テクノロジーの進展とともに、音声や動画をコンピューターネットワーク上で自由に伝えることができるようになりました。さらに、モバイル通信網の急速な発展と、2010年代から広く普及したスマートフォンにより、視聴者・リスナーのみなさんは今、手のひらのうえで多彩なコンテンツを楽しんでいます。この10年間の、デジタルメディアの進展は、目をみはるものがあります。
私たち民間放送はこうした変化にどう対応してきたのでしょうか。
テレビは、政府の後押しと、視聴者のみなさんのご理解を得て、放送システム全体をデジタル化する道を選びました。デジタル化されたテレビ受信機の多くはインターネットに直接接続することが可能です。テレビ受信機は、放送波とインターネットの双方を通じたコミュニケーションが可能な機器に変貌しています。
ラジオは、放送システムをデジタル化するのではなく、radikoなどにより放送を同時にインターネットで配信する道を選びました。
民間放送の各社はテレビもラジオも、それぞれのやり方で従来の放送を中心としながら、デジタルメディアをも扱う複合的な事業に変貌しています。
電通が毎年発表している日本の広告費をみると、テレビ、ラジオの広告費はリーマンショックや新型コロナが影響した年を除けば、横ばいか微減となっている一方で、インターネット広告費はほぼ毎年2ケタの伸びが続いています。放送とデジタルメディアの複合企業となりつつある私たちにとって、インターネットは大きなフロンティアであると思います。しかし、そのフロンティアはグローバル企業がひしめく過酷な競争の場です。
会長就任にあたって、私は、「民間放送の価値を最大限に高め、社会に伝える施策」の実施を提案し、各専門委員会委員長の協力を得て、9月に具体的な施策を固めて、発表しました。その基本姿勢は、「メディア環境の複雑化・多様化に対応するために、民間放送としての協調領域を見極めて積極的に取り組むこと」です。“レッドオーシャン”とも言われるインターネットビジネスに乗り出し、事業として生き残っていくために、われわれはできる限り、協調していく必要があると思うからです。さらに付け加えれば、放送の将来を確かなものにするための協調関係は、NHKを含む放送業界全体でも必要になってくるものと思います。
施策の柱は、「信頼される放送の堅持」「民間放送の持続可能性の向上」「テクノロジーの進歩への対応」「民間放送の価値の社会への浸透やステークホルダーとの共有」の4つです。
インターネットという厳しい競争市場に向きあう私たちにとって、武器となるものの1つは、「放送」の世界で培ってきた高い信頼性です。さまざまな世論調査において、民放テレビ、ラジオの信頼度は高いスコアを示しています。その信頼感は、キー局にとっては、多様で豊かなコンテンツを届けることで得られたものであり、ローカル局にとっては、それぞれの地域のコミュニティのなかで必要とされる存在であることで得られたものであると、私は考えています。
民間放送の持続可能性は、この信頼感をベースとするものでなくてはなりません。放送基準、各社の番組審議会、BPOは、その信頼感を支える大切な仕組みです。
「持続可能」な取り組みということでは、世界の主要な報道機関が参加しているSDGメディア・コンパクトに多くの民放連会員社が参加し、みなさんの名刺にSDGsのマークが刷り込まれたものもよく見かけるようになりました。1951年に制定された民放連の放送基準の前文(まえぶん)には、「公共の福祉」「文化の向上」「産業と経済の繁栄」に役立ち、「平和な社会の実現」に寄与することがわれわれの使命であると書かれており、SDGsが掲げる17のゴールとその精神において一致しています。その民放連の放送基準は来年4月に大幅な改正を行い、新しい社会の価値観に、より即したものになります。
「テクノロジーの進歩への対応」では、既に述べたインターネットへの対応に加えて、総務省の有識者会議でも議論が進んでいる「放送インフラの将来像に関する技術検討」を挙げました。視聴者・リスナーの役にたつコンテンツを届け続けるために、放送インフラに関しても新しいデジタル技術を活用し、経済合理性を追求したいと考えます。この面では、前田会長をはじめとするNHKのみなさんと積極的に連携を図ってまいりたいと存じます。
「民間放送の価値の社会への浸透やステークホルダーとの共有」では、テレビ、ラジオの広告効果に関するPRを掲げました。民間放送の広告媒体としての価値が過小評価されているのではないかと考えるからです。実際、民放連研究所が2回にわたり実施した調査では、テレビ広告は今でも巨大なリーチを有しているだけでなく、コスト面でインターネット広告に比べて効率的であるとの結果が出ています。
日本は自然災害が多い国です。万が一、南海トラフ地震のような大規模な地震が起こったときに、信頼される放送がなかったらと考えると、空恐ろしい思いがします。こうした面についても「放送」の価値を再確認しておきたいと思います。
民間放送で働く人は、これまで自らの存在意義や取り組みをアピールすることに積極的ではなかったかもしれませんが、今後は自分たちの価値をもう少し素直に主張していくことが大切です。
ロシアのウクライナへの侵攻以来、世界経済の混乱が続き、日本経済も資源価格の高騰や円安の影響などにより、戦後最大級の難局にあるとされています。民放は、社会正義を実現する報道番組や、人々の喜怒哀楽に寄り添う娯楽番組を放送することで、よりよい社会の実現に寄与してきました。悲観的な予測との向き合いを避けてはいけませんが、下を向いていては始まりません。民間放送が、人々に生きる希望を届け、日本社会の明るい未来を切り開く存在であり続けるために、最大限の努力を傾けていきましょう。
最後になりましたが、本大会の実現のためにご尽力いただいた石澤・民放大会委員長をはじめ、大会の準備を進めてこられた関係者の皆さまに、心から感謝を申しあげ、ごあいさつとさせていただきます。
2022年11月8日
一般社団法人 日本民間放送連盟
会 長 遠 藤 龍 之 介