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第71回民間放送全国大会/遠藤会長あいさつ
日本民間放送連盟会長の遠藤でございます。
第71回民間放送全国大会の開催にあたりまして、主催者を代表して、ごあいさつを申しあげます。
本日は、ご多忙の中、鈴木淳司総務大臣、稲葉延雄NHK会長にご臨席をいただきました。岸田内閣総理大臣からは、ビデオでご祝辞を賜っております。誠にありがとうございます。また、会場にお集まりのみなさん、配信をとおして参加をいただいているみなさんにも厚くお礼を申しあげます。
さて、今日はラジオから話を始めたいと思います。おとといの日曜日まで9日間にわたり、東京ビッグサイトで日本自動車工業会の主催による「ジャパン モビリティ ショー」が開催されていました。民放連のラジオ委員会は「ラジオはいまも、これからも、モビリティにとってかけがえのないパートナーであること」を訴求し、変貌をとげる自動車業界に向けて、カーラジオの有用性、重要性を伝えていました。
私も会場に足を運んで、ラジオ委員会の出展に加え、日本の自動車業界が今後、どのような道を進んでいこうとしているのかを見てまいりました。このイベントは、1954年に「全日本自動車ショウ」として始まり、1964年に「東京モーターショー」となり、コロナ禍を経た今回、「ジャパン モビリティ ショー」と名称を改めて、再開されたものです。他業界のことですが、「モーター」から「モビリティ」に自分自身を再定義しようとする試みに、大変、感銘を受けました。
「モーター」つまり「発動機」は物理的な機材ですが、「モビリティ」は「移動できる」ということです。人びとに提供しているサービス、価値をさしています。
最近、あるコンサルタント会社の方の話として、「米国の鉄道会社は、飛行機の時代に乗り遅れて衰退していった。彼らは自分たちを“鉄道”の会社と考えていたが、“人びとを移動させる”会社と定義していたら、航空ビジネスに乗り出していただろう」ということを聞きました。
メディア業界の先例としては、新興メディアであるテレビに対抗するために、日本の映画会社が既得権を守ろうと五社協定を結んだことも思い起こされます。あのとき、映画会社が“動画作品を人びとに提供する”会社と再定義して、テレビビジネスに積極的に進出していたら、映画界の復活ももっと早い時期に行われていたかもしれません。
放送波という伝送路は、放送会社がその価値を提供するための手段として非常に優れたものです。現在でも、リーチの大きさだけでなく、広告認知効率の高さやブランド構築への寄与で高い価値を有するメディアであることが、民放連研究所の調査でも明らかになっています。その優位性は大事にしていかなければなりません。そして、優位性を維持するために、中継局の共同利用などの効率化の作業も不可欠です。総務省のご協力も得ながら、NHKと手を携えて取り組んでいきたいと思います。鈴木大臣、稲葉会長、どうぞよろしくお願いいたします。
ただ、伝送路という物理媒体に拘泥すると、米国の鉄道会社の轍を踏むことになりかねません。
この会場にお集まりの民放経営者のみなさんは、放送波という手慣れた武器を右手で使いながら、左手は横に広げて新たな武器を探り出していくという難しい課題にチャレンジする立場にあります。一つの武器の使い方をひたすら修練すればよかった時代の経営者とは、異なるセンス、異なる発想が求められているのだと思います。私自身、日々悩みながら、そのことに取り組んでおります。
NHKのかじ取りをになう方々も同様の悩みを抱えていらっしゃるのだと思いますが、あまり大きく左手を広げすぎると民間と衝突することになります。適切なすみ分けが必要だと思います。
世界に目を転じますと、ウクライナ、パレスチナなどでは戦禍が続いています。多くの尊い人命が失われていることに加え、穀物価格、資源価格の高騰による物価高が人びとの生活を脅かしています。地球温暖化に起因する甚大な自然災害も、世界各地で続発しています。また、インターネットの普及により、フィルターバブルやエコーチェンバーといった情報環境のゆがみが生まれ、生成AIは大きな可能性を示す一方で、フェイクニュースを加速することも危惧されています。
こうした困難な状況のなかで、私たちが人びとに提供している価値は、「信頼できるニュース・情報」「安心して楽しめる娯楽」を365日休むことなく送り届けるところにあります。ローカル局にとっては、「信頼できるニュース・情報」は、地域の方々に役に立つニュース・情報と力点を置いて読み替えることができると思います。
また、スポンサーのみなさんに対しては、信頼され、安心できるコンテンツに広告をつけるという価値を提供しているのだと思います。
今年、私たちが提供している価値に大きな疑念を抱かせる事実がクローズアップされました。大手芸能事務所のトップが長年にわたり、少年たちに行っていた性加害の事実です。民放連の放送基準や報道指針には「人権の尊重」がうたわれていますが、その理念に照らして自分たちの報道が不十分であったこと、また、制作にかかわっている方々への人権に対する意識が低かったこと、このことは深く反省する必要があります。民放連としても、あらためて「人権に関する基本姿勢」を形にしたいと考えています。
健全な民主主義にもとづく、平和で安定した日本社会を維持し、つくりあげていくことに貢献する。私たちに課せられた使命は、非常に重いものがあります。そして、その使命は、今後何十年もの間、変わることはありません。
今日は、このことを確認し、再出発する日にしたいと思います。
最後になりましたが、本大会の実現のためにご尽力いただいた佐々木卓民放大会委員長をはじめ、大会の準備を進めてこられた関係者の皆さまに、心から感謝を申しあげ、ごあいさつとさせていただきます。
2023年11月7日
一般社団法人 日本民間放送連盟
会 長 遠 藤 龍 之 介